葭萌関(かぼうかん)の劉備(りゅうび)のもとに、曹操軍(そうそうぐん)が南下を開始したとの情報が入る。
そこで劉備は龐統(ほうとう)の進言を容れ、孫権(そんけん)に助力するためいったん荊州(けいしゅう)へ帰る旨の書簡を送り、劉璋(りゅうしょう)に兵士と兵糧の提供を頼む。ところが劉璋から届けられたのは――。
第194話の展開とポイント
(01)葭萌関
葭萌関は四川(しせん)と陝西(せんせい)の境にあり、ここはいま漢中(かんちゅう)の張魯軍(ちょうろぐん)と、蜀(しょく)に代わって関を守る劉備軍とが対峙(たいじ)していた。
攻めるも難、防ぐも難。両軍は悪戦苦闘のまま互いに譲らず、はや幾月かを過ごしていた。
曹操が呉(ご)へ攻め下ったことが伝わると、劉備は龐統に対応を諮る。龐統はこの際、その聞こえを利用し、劉璋に一書を送るよう勧めた。
曹操軍が南下したので、呉の孫権から荊州へ救援を求めてきている。呉と荊州とは唇歯の関係にあり、姻戚の義理もある。
よって駆けつけなくてはならないが、魏(ぎ)の曹操軍に対しては、如何(いか)んせん兵力も兵糧も足らない。精兵3、4万に兵糧10万石(せき)を合力されたい。
龐統が、このように言い遣るのがよいと示すと、劉備は使者を成都(せいと)へ遣わした。
(02)涪水関(ふすいかん)
劉備の使者は涪水関で止められ、やむなく書簡を示してみせる。守将の楊懐(ようかい)と高沛(こうはい)は、この書簡を陰で読んでしまった。使者は通過を許され、書簡も返されたものの、「成都までご案内申す」と、楊懐が兵を連れてついていく。
★『三国志演義 改訂新版』(立間祥介〈たつま・しょうすけ〉訳 徳間文庫)の訳者注によると、「(涪水関〈ふうすいかん〉は)涪関とも呼ばれるが、正しくは白水関(はくすいかん)」だという。
(03)成都
さっそく楊懐は劉璋の前へ出て、決して劉備の要求に応じてはならないと進言。
しかし、相変わらず劉璋は煮えきらない顔色で、恩義もあるし、同宗の誼(よしみ)もあるし、などと口の中で繰り返している。
その様子を見た劉巴(りゅうは)や黄権(こうけん)も、口を酸っぱくして諫めた。重臣がみな反対では劉璋も従わざるを得ない。
それでも、ただ断るのも悪いというので、戦線には用いられないような老朽の兵ばかり4千人と穀物1万石。さらに廃物に等しい武具や馬具などを車輛(しゃりょう)に積み、使者とともに送り届けた。
(04)葭萌関
劉備はその冷淡に怒り、劉璋の返簡を使者の前で破り捨ててみせる。輸送にあたった奉行(ぶぎょう)はほうほうの態で成都へ帰った。
劉備がこの後の策を尋ねると、龐統は3つの策を献ずる。どれでもわが君の意に召した計をお採りなるがよいでしょうと。
一策は、今からすぐ昼夜兼行で道を急ぎ、有無なく成都を急襲する。このことは必ず成就するゆえ、これを上策とすると。
次の策は、いま偽って荊州へ帰ると触れ、陣地の兵をまとめにかかる。すると楊懐や高沛などは、かねてより希望していることだから、必ず面に喜びを隠し、口に惜別を述べて送りに来るだろう。
そのときこの蜀の名将ふたりを殺し、たちまち兵馬を蜀中へ向け、一挙に涪水関を占領してしまう。これは中策と考えられると。
その次の策は、ひとまず兵を退いて白帝城(はくていじょう)に至り、荊州の守備を強固となし、心静かに次の段階を慮る。だが、これは下策にすぎないと。
上・中・下の三策を聞くと、劉備は中策を採ることにした。
(05)成都
日を経て、劉璋の手元に劉備の一書が届く。それには、呉境の戦乱がいよいよ拡大してきたことを告げ、葭萌関に代わりの蜀将を差し向けてほしいとある。自分は急きょ荊州へ帰るともあった。
劉璋は悲しんだが、反劉備勢力は、密かに胸で凱歌(がいか)を奏する。ひとり悶(もだ)えたのは、大勢をここまで引っ張ってきた張松(ちょうしょう)だった。
(06)成都 張松邸
屋敷に帰ると、張松は劉備へ激励の手紙を書く。そこへ兄の張粛(ちょうしゅく)が来たというので、手紙を袂(たもと)に隠して客間へ出た。
張松は兄に釣られ、思わず酒を過ごしてしまう。そのうち二度、厠(かわや)へ立ったが、急に張粛は帰ると言って出ていく。
まもなく入れ替わりに、どやどやと兵が入ってくると、有無を言わせず張松を搦(から)め捕り、家人や召し使いまでひとり残らず拉致(らち)した。
(07)成都
翌日、市街の辻(つじ)で首斬りが行われた。みな張松の一家で、罪状を記した高札には売国奴たる大罪が箇条書きにしてある。
直訴人はその兄だったと街のうわさはやかましい。兄と飲んでいるうち、張松が酔中に袂から落とした自筆の手紙が証拠になったものだという。
管理人「かぶらがわ」より
もし無事であったら、劉備の成都入城後に重く賞されたはずの張松でしたが――。だいぶ大詰めまで来て、酒でヘマをしてしまいました。
ただ、兄の張粛の行動はどう見るべきなのでしょうか? やはり、こういう態度が主君への忠義なのかな……。
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