竹裏館(ちくりかん)の密会で大言を吐き、董卓(とうたく)の刺殺を請け合った曹操(そうそう)。
王允(おういん)から借り受けた七宝剣(しっぽうけん)を手に、董卓の間近まで迫るも仕損じ、その場を取り繕って行方をくらます。
第023話の展開とポイント
(01)洛陽(らくよう) 丞相府(じょうしょうふ)
竹裏館の密会で董卓の刺殺を請け合い、王允から家宝の七宝剣を借り受けた曹操。
★冒頭で曹操の生い立ち、少年時代や青年時代のエピソードが語られていた。ただ、この第23話の展開とは直接関係がないので、ここで細かく書き出すのはやめておく。
それでも曹操が務めていたという「洛陽の北都尉(ほくとい)」は、正しくは「洛陽北部尉(らくようほくぶい)」だったり……。何顒(かぎょう)は生年がはっきりしないものの、橋玄(きょうげん)とも友達だったという記述など、いくつか引っかかるところがあった。
確かに橋玄は若き日の曹操をいち早く評価したひとりだが、曹操より40歳以上も年長で、霊帝(れいてい)の時に三公すべてを歴任したほどの名士。曹操から見れば恩義のある長老的な存在なので、友達という表現は軽すぎると思う。
橋玄が曹操に許子将(きょししょう。許劭〈きょしょう〉)を引き合わせた件は、『三国志』(魏書〈ぎしょ〉・武帝紀〈ぶていぎ〉)の裴松之注(はいしょうしちゅう)に引く郭頒(かくはん)の『世語(せいご。魏晋世語〈ぎしんせいご〉)』に見える。
曹操が許子将から「治世の能臣(腕前の優れた役人)、乱世の姦雄(かんゆう。悪賢い英雄)」と評された件も、同じく「武帝紀」の裴松之注に引く孫盛(そんせい)の『異同雑語(いどうざつご)』に見える。
★なお『三国志演義大事典』(沈伯俊〈しんはくしゅん〉、譚良嘯〈たんりょうしょう〉著 立間祥介〈たつま・しょうすけ〉、岡崎由美〈おかざき・ゆみ〉、土屋文子〈つちや・ふみこ〉訳 潮出版社)によると、「実際の許劭の曹操評は『清平(静かで平安に治まる様子)の姦賊(かんぞく。悪者)、乱世の英雄』である」という。
翌日、曹操はいつものように丞相府へ出仕。
★董卓の役所を丞相府と表現していた点はやや不満。相国(しょうこく)と丞相の職務は同じだが、董卓が相国を称している以上、その役所は相国府とすべき。以後、董卓を相国と呼んだり丞相と呼んだり呼称の揺れが見られるが、重ねての指摘は控える。
董卓から出仕する時刻が遅いととがめられると、曹操は、自分の馬が痩せ衰えた老馬で道が遅いためだと言い訳する。
これを聞いた董卓はそばにいた呂布(りょふ)に、厩(うまや)から手ごろな馬を1頭選んで遣わすよう命ずる。呂布が閣の外へ出ていったのを見て心を躍らせる曹操。
董卓が背を向けて牀(しょう。寝台)の上で横になった隙を突き、七宝剣を抜いて自分の背に刃を回し、牀の下へ近づきかけた。ところが、手にした七宝剣の光鋩(こうぼう。光の筋)が近くの壁に掛けられていた鏡に映ってしまう。
その光に気づいて起き上がる董卓。曹操は、献上しようと持参した剣を拭っていたと言い繕い、七宝剣を差し出す。
董卓が七宝剣を手に取っているところへ呂布が戻ってくる。曹操は拝領した馬に試し乗りをしたいと願い出、許しを得て丞相府の門外へ駆け出す。
いつまでも戻ってこないため董卓が不審がると、呂布は、最前の曹操の挙動には腑(ふ)に落ちない点があったとして、「彼はもうここに帰りますまい」と言う。
董卓は李儒(りじゅ)の意見に従い、曹操の屋敷に6、7騎の使い番を遣ってみたが、やはり彼はいなかった。また曹操が急命を帯びたと称し、東門を出て関門も越えていったこともわかった。
董卓は曹操の人相や服装を描かせ、諸国へ写しを配るよう厳命。生け捕った者は万戸侯(ばんここう)に封じ、首を献じた者には千金の賞を与えるとした。さらに李儒に、同謀の与類も虱(シラミ)つぶしに詮議し、捕らえて拷問にかけるよう命じた。
管理人「かぶらがわ」より
董卓の刺殺に失敗した曹操。ここから命がけの逃亡劇が始まります。もしここで董卓が殺されていたら、曹操の勢力拡大の過程はまったく違ったものになっていたのでしょう。
ただ『三国志』(魏書・武帝紀)には、献帝(けんてい)を擁立した董卓が、曹操を驍騎校尉(ぎょうきこうい)に任ずるよう言上し、今後のことを相談しようと考えていたところ、曹操は姓名を変えて(洛陽から脱出し)、間道を通って東へ帰ったとあるだけ。やはり、話としては小説のほうがおもしろくできています。
なお、この第23話のタイトルに使われている「白面郎」には「色白の美少年」「経験の乏しい若者」「貴族の子弟」などの意味があります。3つ目の解釈が無難だと思いますけど、(曹操の場合は)「色白の美少年」というのも通ずるのでしょうか?
テキストについて
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吉川英治著 新潮社 新潮文庫
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記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。
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