吉川『三国志』の考察 第024話「偽忠狼心(ぎちゅうろうしん)」

董卓(とうたく)を仕留め損ねて洛陽(らくよう)から逃走した曹操(そうそう)だったが、中牟県(ちゅうぼうけん)の関門で陳宮(ちんきゅう)に正体を見破られ、ついに捕らえられる。

しかし、陳宮は曹操の志を聴くと心を動かされ、官職を捨てて彼と行動をともにする決意を固めた。

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第024話の展開とポイント

(01)中牟県

董卓の刺殺に失敗した後、洛陽から馬で脱出して逃げ続ける曹操。曹操を捕らえよとの董卓の触れは、諸州郡へ飛ばされていた。

しかし中牟県の関門で守備兵に怪しまれ、ついに捕まってしまう。関門兵の隊長である道尉(どうい)の陳宮は、都(洛陽)で曹操の顔を見たことがあったため一見して本人と見破る。

『三国志演義(1)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第4回)では、陳宮は中牟県令(ちゅうぼうけんれい)になっていた。

曹操は鉄の檻車(かんしゃ)に入れられ、明日にも洛陽へ護送されるという状況に陥った。ところがその夜、陳宮が檻車に近づき曹操の志を問いただす。

話を聴いた陳宮は檻車の鉄錠を外して扉を開き、曹操を中から引き出した。そして自室に呼び入れると、自分も官を捨てると言い、協力して天下の義兵を呼び集めるとの考えを伝える。

陳宮は東郡(とうぐん)の自宅に立ち寄って身支度を整え、曹操とふたり、夜明け前にはひた急ぎに落ち延びていった。

(02)成皐県(せいこうけん) 呂伯奢邸(りょはくしゃてい)

それから3日目、曹操と陳宮は成皐県の辺りをさまよっていたが、この地には曹操の父(曹嵩〈そうすう〉)の友人である呂伯奢が住んでいた。

井波『三国志演義(1)』(第4回)では呂伯奢は曹嵩の義兄弟とある。

ふたりは家を尋ね当て、呂伯奢から人相書きが出回っていることを聞く。董卓の刺殺に失敗した件を淡々と語る曹操は、陳宮と知り合った経緯についても話す。

ふたりは一室に入って休息を取り、呂伯奢は隣村まで酒を買いに行く。だが、なかなか帰ってこない。

そのうち夜も初更(午後8時前後)のころ、どこかから刀でも研ぐような鈍い響きが聞こえてくる。

曹操は呂伯奢が県吏に密訴しに行ったと誤解。陳宮とともに室外へ飛び出すと、呂伯奢の家族や召し使いら8人を皆殺しにしてしまう。

曹操が陳宮に逃走を促していると、厨(くりや)の外で生きた猪(イノコ)が木に脚を吊るされているのが見えた。

ひどく後悔する陳宮。無意味な殺生をしたと悔いていると、曹操は武人に似合わぬことだと笑う。やむなく陳宮も曹操に付き従い、林の中につないでおいた馬に乗って逃げた。

(03)成皐県 呂伯奢邸の近く

こうして2里余り行くと、驢(ロ)にふたつの酒瓶(さかがめ)を結びつけた呂伯奢と出くわす。あわてて曹操は、昼間に立ち寄った茶店に大事な品を忘れたので、これから取りに行くところだと伝える。

いったん呂伯奢と別れたふたり。さらに4、5町ほど来たところで、不意に曹操が陳宮を呼び止め、しばらくここで待っていてくれと言いだす。怪しみながらも陳宮が待っていると、やがて戻ってきた曹操は、呂伯奢も突き殺してきたと言う。

井波『三国志演義(1)』(第4回)では、曹操が呂伯奢を斬殺した現場に陳宮も居合わせていた。

驚いた陳宮は、罪のない者を殺すのは人道に背くと責める。だが曹操は、大声でこう言って先を急いだ。「我をして、天下の人に背かしむるとも、天下の人をして、我に背かしむるをやめよ、だ」

(04)古廟(こびょう)の門前

深夜の月明かりを頼りに10里も走ったころ、ふたりは古廟の荒れた門前で馬を下りてひと休みする。

井波『三国志演義(1)』(第4回)では、曹操と陳宮が泊まったのは旅館だった。

人目につかない木陰に馬をつないでおくという陳宮に、曹操が惜しいことをしたと述懐を漏らす。聞くと呂伯奢を殺したとき、彼が持っていた美酒と果実を奪ってくるのを忘れていたのだという。やはりいくらかはあわてていたのだ、とも。

もう返事をする勇気もない陳宮。馬をつないで戻ると、すでに曹操は古廟の軒下で熟睡していた。考えた末、陳宮は眠っている曹操を刺し殺そうとしたが、寝込みを殺すのは武人の本領ではなく、不義だと考え直す。

管理人「かぶらがわ」より

陳宮に命を救われた曹操(見方によっては二度ですね)。不義なだけの男なのか? それとも時代を変えるほどの男なのか? 陳宮も曹操の人物を計りかねているようでした。

この第24話で出てきた呂伯奢ネタは、『三国志』(魏書〈ぎしょ〉・武帝紀〈ぶていぎ〉)の裴松之注(はいしょうしちゅう)にいくつかの書物から引かれていますが、本紀には関連の記事がありません。

なお、この第24話のタイトルに使われている「狼心」は、哀れむ心のないことです。

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