吉川『三国志』の考察 第020話「呂布(りょふ)」

新帝(弁皇子〈べんおうじ〉。辯皇子)と陳留王(ちんりゅうおう。協皇子〈きょうおうじ〉)が無事に洛陽(らくよう)へ戻ってくると、これまで澠池(べんち)に兵馬を留めて動かなかった董卓(とうたく)が姿を見せる。

ほどなく実権を握った董卓は温明園(おんめいえん)で大宴会を催し、今の天子(てんし)を廃して弟の陳留王を即位させたいと言いだす。これに真っ向から反対した幷州刺史(へいしゅうしし)の丁原(ていげん)の後ろには、天下無双と評判の男が目を光らせていた。

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第020話の展開とポイント

(01)洛陽 宮門

新帝と陳留王が洛陽へ還幸。出迎えた何太后(かたいこう)は新帝の手に玉璽(ぎょくじ)を戻そうとしたが、(先の宮中の混乱の中で)いつの間にか紛失していた。

伝国の玉璽が見えなくなったことは漢室(かんしつ)の大問題であり、それだけに固く秘密にした。だが、密かに伝え聞いた者は漢室の亡兆に眉をひそめた。

(02)洛陽

董卓は澠池に留めていた兵馬を洛陽の城外へ移し、自ら毎日1千騎の鉄兵(武装した兵)を引き連れ、王城や市街をわが物顔に横行していた。

そのころには幷州の丁原、河内太守(かだいたいしゅ)の王匡(おうきょう)、東郡(とうぐん)の喬瑁(きょうぼう。橋瑁)といった諸将が先の詔書によって上洛してきたものの、董卓軍のありさまを見て皆なすことを知らなかった。

ここで丁原らが「先の詔書によって上洛してきた」とあったが、彼らの上洛は何進(かしん)の檄(げき)に応じたものだったのでは? 詔書が下されたという記述はなかったが……。このあたりのことについては先の第18話(04)を参照。

後軍校尉(ごぐんこうい)の鮑信(ほうしん)は、袁紹(えんしょう)や司徒(しと)の王允(おういん)に董卓の態度への不満を述べたが、ふたりとも動こうとしない。嫌になった鮑信は自分の手勢だけをひきいると、泰山(たいざん)の閑地に逃避してしまった。

ここで司徒の王允を「司法官たる王允」ともしていたが、なぜ司徒を司法官と表現していたのかわからなかった。当時、裁判を担当したのは廷尉(ていい。もとは大理〈だいり〉とも)とその属官である。

(03)洛陽 温明園

董卓が主人役となって文武百官を集め、大宴会を催す。彼の威を恐れ、欠席する者はほとんどいなかった。

美酒玉杯が数巡したところ、おもむろに立ち上がった董卓は、今の天子を廃して弟の陳留王を擁立したいとの意向を、宣言同様に語りだす。

反対する者などあるわけもないと、自信に満ちた目で皆を眺め回していたが、ここで幷州刺史の丁原が立ち上がった。そして真っ向から反対の意見を述べ、董卓のことを簒奪(さんだつ)を企む者だと皮肉る。

激怒した董卓は佩剣(はいけん)の柄に手をかけたが、丁原の後ろにはひとりの偉丈夫が厳然と立っていた。

股肱(ここう)の李儒(りじゅ)になだめられ、しぶしぶ剣の柄から手を引く董卓。それでも、丁原の後ろに立つ男が気になってたまらなかった。

このやり取りで一時は宴席も白け渡ったが、ひとしきり酒杯の交歓があると再び董卓が立ち上がる。最前に述べた帝の廃立の件を重ねて言いだすと、中郎将(ちゅうろうしょう)の盧植(ろしょく)が故事を引いて諫言しようとした。

董卓は周囲の武将に盧植を斬るよう命じたが、李儒に止められる。怒りが収まらない董卓は、盧植の官職を剝奪して都から追い出す。この日から盧植は世を見限り、上谷(じょうこく)の閑野へ隠れてしまった。

宴会が殺伐とした状況で散会になると、董卓は丁原を斬ろうと轅門(えんもん。ここでは庭園内の門の意)で待ち受けた。

董卓は李儒から、宴席で丁原の後ろに立っていた男が「呂布(りょふ)」という名で、丁原の養子であること。加えて、弓馬の達者で天下無双と聞こえていることを知らされる。あわてて園内の一亭に隠れ込む董卓。

(04)洛陽の城外 董卓の軍営

翌日、にわかに丁原が兵をひきい、董卓の軍営を急襲してくる。

董卓は鎧(よろい)を着て陣頭に出たものの、方天戟(ほうてんげき)を手にした呂布が、馬上から縦横無尽に斬りまくっている様子を見て敵ながら見とれてしまい、また内心では深く恐れおののいた。

管理人「かぶらがわ」より

ふんぞり返る董卓を相手に、すっくと立ち上がる丁原。そして天下無双の呂布が登場と。

ここで伝国の玉璽を紛失した件に少しだけ触れていましたが、実はこれが効果的な伏線になっているのですよね。

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記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。

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