吉川『三国志』の考察 第055話「神亭廟(しんていびょう)」

首尾よく袁術(えんじゅつ)から兵馬を借りた孫策(そんさく)は快進撃を見せ、牛渚(ぎゅうしょ)の要塞を陥すと劉繇(りゅうよう)の霊陵城(れいりょうじょう)へ迫る。

劉繇自身も城から出撃し、神亭山(しんていざん)の南に本営を置く。孫策も先んじて神亭山の北側へ移っていたが、この山には光武帝(こうぶてい。劉秀〈りゅうしゅう〉)の御霊廟(みたまや)が残っていると聞き――。

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第055話の展開とポイント

(01)揚州(ようしゅう。楊州) 霊陵城?

孫策の南下を聞いた劉繇は評議を開く。さっそく牛渚の寨(とりで)へ何十万石(せき)という兵糧を送り、同時に張英(ちょうえい)に大軍を授けて防備にあたらせた。

その折、評議の末席にいた太史慈(たいしじ)が先鋒を希望するも、劉繇はひと言の下に退ける。太史慈は30歳になったばかりの若手で、仕えて日の浅い新参でもあった。

このとき(興平〈こうへい〉2〈195〉年?)太史慈が30歳だったというのは史実とも合っている。

(02)牛渚

張英は牛渚の要塞に立て籠もると、邸閣(食糧貯蔵庫)に兵糧を蓄え悠々と孫策軍を待ち構えていた。

孫策は数十隻の兵船を整えて長江(ちょうこう)を遡行。矢が飛び交う中をいち早く上陸し、群がる敵に斬り入る。

黄蓋(こうがい)と戦った張英がかなわず味方に逃げ込むと、劉繇軍は堤が切れたように敗走しだした。

ところが張英が牛渚へ逃げてくると、城門の内側や兵糧庫の辺りが一面黒煙に包まれている。裏切り者が出たとわかり、張英は逃げ惑う兵をひきいて山深くへ逃げ込んだ。

こうして孫策は思わぬ大勝を博したが、ほどなく牛渚から300人ほどの一群が近づいてくる。その中の大将らしいふたりに会ってみると、九江(きゅうこう)の潯陽湖(じんようこ)に住む湖賊の頭目で公奕(こうえき)と幼平(ようへい)と名乗った。

公奕は蔣欽(しょうきん)のあざな。幼平も周泰(しゅうたい)のあざなである。あざなでの初登場だったので、このあたりのことがわかりにくい。

孫策は牛渚に火を放って内応した経緯を聞き、配下に加える。ふたりは敵の兵糧庫から兵糧を奪ってきたり、付近の小賊や無頼漢などを呼び集めてきたため、たちまち孫策軍は4千を超える兵力になった。

(03)霊陵城

劉繇は、鉄壁と信じていた防御線の寨のひとつがわずか半日で破られたと聞き、愕然(がくぜん)と色を失う。

ここで出てきた霊陵城がよくわからず。どこにあった城を想定したものだろうか?

このことについて『三国志演義(1)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)の訳者注によると、「ここでいう零陵城は後の文によれば秣陵(まつりょう)の誤り」だという。なお、ここで吉川『三国志』は零陵城を霊陵城としていたため、上のような事情がより理解しにくくなっている。

そこへ張英が敗兵とともに逃げ込んできたので、なおさら劉繇は憤怒し、手討ちにすると息巻く。諸臣がなだめたため、ようやく張英は一命を助けられた。

霊陵城の守りを固め直した劉繇は自ら陣中に加わり、神亭山の南に本営を進める。その前日には、孫策軍4千余も神亭山の北側へ移動していた。

(04)神亭山

数日後、孫策は土地の百姓の長から、神亭山に今でも後漢(ごかん)の光武帝(劉秀)の御霊廟が残っていることを聞く。孫策は里長(さとおさ)に、明日その御霊廟に案内せよと言う。

里長が帰ると張昭(ちょうしょう)が諫め、廟(びょう)を祭るなら戦が終わった後にするよう言う。しかし孫策は、昨夜(ゆうべ)光武帝の夢を見たと言って聞かない。

翌日、孫策は里長を案内者として騎馬で山道へ向かった。程普(ていふ)・黄蓋(こうがい)・韓当(かんとう)・蔣欽・周泰など13人が付き従う。

ここで蔣欽と周泰という名が出てきた。この記事の主要テキストとして用いている新潮文庫には註解(渡邉義浩〈わたなべ・よしひろ〉氏)があったが、もしこれがなかったら、この第55話(02)に登場した公奕が蔣欽、幼平が周泰のことだとわからないかもしれない。

なお、井波『三国志演義(1)』(第15回)では孫策も含め合計で13騎とあり、付き従っていたのは12人ということになる。

光武帝の御霊廟に着くとみな馬を下り、辺りの落ち葉を掃いて供え物を捧げる。孫策は香を焚き廟前にぬかずくと、詞(願文)をもって亡父の遺業を継がせてほしいと祈念した。

これを終えると峰の道をもとのほうへ戻らず、南に向かって下りていこうとする。諸将は驚きあわて、そちらへ行っては敵地に下りてしまう、と注意を促す。

管理人「かぶらがわ」より

蔣欽(公奕)と周泰(幼平)の助力もあり、鮮やかに牛渚を攻略した孫策。この第55話では、太史慈はちょこっと出てくるだけなのですね。

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吉川英治著 新潮社 新潮文庫
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記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。

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