馬岱(ばたい)に糧道が遮断されたと知った孟獲(もうかく)は、忙牙長(ぼうがちょう)を差し向けるも、あえなく討ち死に。続けて董荼奴(とうとぬ)を差し向けたが、彼は先に諸葛亮(しょかつりょう)に助命された恩を感じており、まともに戦わなかった。
帰還した董荼奴は、孟獲から百杖(ひゃくじょう)の刑打を加えられて面目を失う。そこで配下の者と相談し、昼寝中の孟獲を捕らえて蜀陣(しょくじん)へ赴く。ところが諸葛亮は――。
第267話の展開とポイント
(01)瀘水(ろすい)の南岸 孟獲の本営
蜀の馬岱へ差し向けた忙牙長が、簡単に返り討ちにされたと聞き、疑いを抱く孟獲。しかし夜になると、土人が忙牙長の首を拾って届けてきた。
孟獲は討たれた忙牙長に代わり、馬岱の首を取ってくる者を募る。董荼奴が名乗りを上げると、孟獲は5千の勢を付けて励まし、夾山(きょうざん)へ向かわせた。
★『三国志演義(6)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第87回)では、董荼奴が董荼那(とうとな)となっていた。
★井波『三国志演義(6)』(第88回)では、このとき孟獲が董荼奴に与えた軍勢は3千。
★夾山について、井波『三国志演義(6)』(第88回)では夾山峪(きょうざんよく)とある。峪は谷や狭間という意味。
その一方、阿会喃(あかいなん)にも大軍を預け、諸葛亮の本軍が瀘水を渡ってこないよう、河流一帯の守りを命ずる。
★井波『三国志演義(6)』(第88回)では、このとき孟獲が阿会喃に与えた軍勢も3千。
蜀軍が疲れるまでジッと守り、不戦主義を採っていた孟獲も、糧道の急所を突かれては、あわてださずにはいられなかった。
(02)夾山 馬岱の軍営
董荼奴が新手を引っ提げて、陣地を奪回しに来たと聞くと、馬岱は自ら蛮軍の前に出る。そして、一度は諸葛亮に命を救われた董荼奴を大声で諭した。
諸葛亮に放されて以来、もとより戦意を失っていた董荼奴は大いに恥じ、旗を巻いて逃げ帰った。
★董荼奴が諸葛亮に命を救われたことについては、先の第264話(05)を参照。
(03)瀘水の南岸 孟獲の本営
孟獲は目をむいて問いただす。董荼奴は言い訳をしたが、孟獲は裏切り者だと言い、即座に首を刎(は)ねようとする。
周りにいた諸洞の蛮将たちは、口々に何か騒いで孟獲を抱き止め、董荼奴のためにしきりと哀を乞う。
すると孟獲は言った。
「いまいましい奴だが、命だけは許してやる。だが洞将たち。百杖の罰は許されないぞ」
土兵に命じて、大勢の中で董荼奴を裸にし、その背へ棍(しもと。棒や杖)をもって百杖の刑打を加える。
(04)瀘水の南岸 董荼奴の軍営
五体血まみれとなったうえに面目も失い、董荼奴は自分の屯(たむろ)に帰っていったが、無念でたまらないらしい。
ついに腹心の部下を集めて子細を語り、いっそのこと、孟獲を殺して諸葛亮に降伏し、蛮土の民を、一様に幸福にしてくれるように頼もうと思うと言い、一同の真意をただす。
部下の大半は、みな一度は諸葛亮に息をかけられた者たちなので、同音に賛成し、ただちに決行しようとなる。
(05)瀘水の南岸 孟獲の本営
ちょうど孟獲は帳中で昼寝をしていた。そこへ100余人の董荼奴の部下が入っていき、不意に枕を蹴飛ばす。
「起きろ!」と言うやいな、高手小手(両手を後ろに回して、二の腕〈高手〉から手首まで厳重に縛ること)に縛ってしまったため、さすがの孟獲もひと声吠えたのみで、どうすることもできない。
★ここで孟獲二擒(にきん)。
本営は蜂(ハチ)の巣をつついたような騒動である。ほかの蛮将や土人の衛兵なども、事の不意に、ただあっけに取られていた。その隙に董荼奴は部下の先頭に立ち、孟獲を担がせて、蛮軍の中営から首尾よく駆け出す。
そして瀘水の岸まで来ると、待たせておいた刳貫舟(くりぬきぶね)に孟獲を放り込み、部下とともに数艘(すうそう)の舟に飛び乗り、対岸(瀘水の北岸)へ逃げ渡った。
(06)諸葛亮の本営
哨兵の知らせを聞くと、諸葛亮は轅門(えんもん。陣中で車の轅〈ながえ〉を向かい合わせ、門のようにしたもの)から営内にわたって兵列を整えさせ、槍旗(そうき)凜々(りんりん)たるところへ董荼奴らを呼び入れる。
まず董荼奴から子細を聞き取ると、大いにその功を賞し、部下一同にも十分な恩賞を取らせた。その後、董荼奴はひとまず洞中へ引き揚げる。
次に孟獲を引き出させると、一笑して、「蛮王。また来たか」と呼びかけた。孟獲は憤怒の目を血走らせ、満身でわめき立てる。
「来たとはいえ、汝(なんじ)の手に生け捕られてきたのではない。偉そうな面をするな!」
諸葛亮は降伏を勧めるが、孟獲は「糞(くそ)う食らえ!」と唾をして、その首を獅子(シシ)のごとく左右に振って猛(たけ)った。
なお諸葛亮が、「殺すは惜しい。孔明(こうめい。諸葛亮のあざな)は惜しむ。心から汝を惜しんでやまないのだ」と言うと、孟獲は、もう一度放してほしいと頼む。
もし放してくれたら、寨(とりで)に帰って檄(げき)を飛ばし、諸洞の猛者を集めて正しく戦法を練り、再び蜀軍とひと合戦するのだと。きっと自分が勝つが、間違って今度もまた敗れたら、洞族一統を引き連れて潔く降参すると。
諸葛亮は笑い、すぐ兵に命じて彼の縄を解かせる。さらに酒を飲ませて馬も与え、瀘水の岸まで送って放す。
★ここで孟獲二放。
孟獲は舟の中から二度ほど振り向いたが、対岸に着くや否や、豹(ヒョウ)のように山寨へ駆け登っていった。
管理人「かぶらがわ」より
これで孟獲、二擒二放。彼を心服させることには手間を惜しまない諸葛亮。
でも、孟獲のようなリーダー的な人物が南中(なんちゅう)にいてくれてよかったのだと思いますよ。各地の洞主が支配地から動かなければ、これをひとつずつ押さえていくのは大変ですからね。
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