吉川『三国志』の考察 第092話「鸚鵡州(おうむしゅう)」

禰衡(ねいこう)は半ば強制的に、曹操(そうそう)の使者として荊州(けいしゅう)の劉表(りゅうひょう)のもとへ遣わされた。

劉表は禰衡の毒舌を疎ましく感じ、ひとまず領内の江夏(こうか)に行かせた。だが、かの地でも黄祖(こうそ)を怒らせ、ついに斬殺される。

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第092話の展開とポイント

(01)荊州(襄陽〈じょうよう〉?)

曹操の使者として来た禰衡が江夏へ行っている間に、荊州には袁紹(えんしょう)の使者も着き、友好を求めてくる。

いずれを選ぶも胸ひとつとなったが、こうなると劉表は欲目に迷い、かえって大勢の判断がつかなくなった。

そこで従事中郎将(じゅうじちゅうろうしょう)の韓嵩(かんすう)に尋ねると、彼は群臣を代表して答えた。もし天下への望みがあるなら曹操に従うべきで、そうでないならどちらでも歩のいいほうに加担すればよいと。

『三国志演義(2)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第23回)では、韓嵩は従事中郎。

ここは「歩のいいほう」でも通じるかもしれないが、形勢のいいほうという意味なら「分のいいほう」としたほうがよさそう。

なお劉表は決しかねていたが、翌日、再び韓嵩を呼び出し、許都(きょと)の実情や曹操の本心を探ってくるよう命じた。

すると韓嵩は、都へ上り天子(てんし。献帝〈けんてい〉)から官爵を賜った場合、何か事があったとき殿(劉表)のためには働けないかもしれない、との不安を口にする。

それでも劉表は別の考えもあると言い、やはり彼を許都へ遣わすことにした。やむなく韓嵩も命を受け、荊州の産物や数々の珍宝を馬に積み、数日後に発つ。

(02)許都 丞相府(じょうしょうふ)

荊州へは先に禰衡を遣わしていたのでいぶかしんだものの、曹操は韓嵩と会って好意を謝し、盛宴を開き長途の旅を慰めたりした。

そして如才なく朝廷に奏請し、韓嵩が侍中(じちゅう)・零陵太守(れいりょうたいしゅ)に任ぜられるよう取り計らう。韓嵩は半月ほど許都に滞在したのち帰国した。

(03)荊州(襄陽?)

帰国した韓嵩はすぐに劉表に目通り。許都の上下に満ちている勃興気運が盛んなことを告げ、殿のご子息のうちおひと方を朝廷に仕官させ、人質として都に留め置かれてはどうかと勧める。

劉表は韓嵩が二心を抱いたとして、辺りの武士に斬り捨てるよう命じた。韓嵩の陳弁と蒯良(かいりょう)の執り成しにより、ようやく劉表も死罪は許し、獄につなぐ。

韓嵩が引っ立てられた後、入れ違いに江夏から使いが来て、禰衡が黄祖に殺されたことを伝える。さっそく劉表はその使いを呼び、子細を尋ねた。

禰衡は江夏へ行ってからも相変わらずで、人もなげに振る舞っていたが、あるとき黄祖が城の南苑(なんえん)に彼を誘い、ふたりだけで酒を酌み交わした。

だいぶ酩酊(めいてい)した黄祖が、いま都では誰と誰とを真の英雄だと思うかと尋ねると、禰衡は言下に答える。

「大人では孔文挙(こうぶんきょ。文挙は孔融〈こうゆう〉のあざな)、小児(こども)なら楊徳祖(ようとくそ。徳祖は楊修〈ようしゅう。楊脩〉のあざな)」

禰衡が「小児なら楊徳祖」と楊修の名を出していたが、史実の楊脩は熹平(きへい)4(175)年生まれ。建安(けんあん)4(199)年の時点では25歳なので小児とは言えない。文字通りの意味ではなく、大人や小児をたとえとして用いているのかも。

そこで黄祖が「じゃあ、吾輩(わがはい)はどうだ?」と聞くと、禰衡は笑って、「きみはまあ、辻堂(つじどう)の中の神さまだろう」と答える。

黄祖が訳を聞くと、禰衡は「土民の祭りを受けても何の霊験もないということさ」と答えた。怒った黄祖は剣を抜くや否や真っぷたつに斬り下げた。これが禰衡の死の顚末(てんまつ)だった。

劉表は家臣を遣って禰衡の屍(しかばね)を移し、鸚鵡州(おうむしゅう)の河畔に厚く葬らせた。

井波『三国志演義(2)』の訳者注によると、「鸚鵡州は湖北省(こほくしょう)漢陽県(かんようけん)西南にある長江(ちょうこう)の洲(なかす)の名」だという。また「黄射(こうしゃ。黄祖の長子)がこの地で宴会を催した際に鸚鵡を献上する者があり、それにちなんで禰衡が『鸚鵡賦(おうむふ)』(『文選〈もんぜん〉』巻13に収める)を作ったため、この名が付いた」ともいう。

管理人「かぶらがわ」より

曹操をも罵倒することで異彩を放っていた禰衡でしたが、結局は黄祖を怒らせて殺されました。彼の真価はどういうものだったのか? イマイチ計りかねています。

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記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。

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