吉川『三国志』の考察 第110話「古城窟(こじょうくつ)」

汝南(じょなん)にたどり着いた関羽(かんう)一行は、とある古城で張飛(ちょうひ)に再会する。

ところが張飛は、いったん曹操(そうそう)に降った関羽に疑いの目を向け、彼の話を信じようとしない。そこで関羽は――。

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第110話の展開とポイント

(01)臥牛山(がぎゅうざん)

関羽は、路傍にうずくまり拝礼を施している周倉(しゅうそう)を助け起こす。

『三国志演義大事典』(沈伯俊〈しんはくしゅん〉、譚良嘯〈たんりょうしょう〉著 立間祥介〈たつま・しょうすけ〉、岡崎由美〈おかざき・ゆみ〉、土屋文子〈つちや・ふみこ〉訳 潮出版社)によると、「臥牛山は山の名。後漢(ごかん)・三国時代には存在しない」という。

また「河南省(かなんしょう)嵩県(すうけん)の西南には伏牛山(ふくぎゅうざん)という山脈があり、当時の司隷州(しれいしゅう)弘農郡(こうのうぐん)から荊州(けいしゅう)南陽郡(なんようぐん)に及んでいる。『三国志演義』の臥牛山は、あるいはこれを指しているかもしれない」ともいう。

すると周倉は、大勢の手下とともに随行を願い出る。関羽は劉備(りゅうび)の二夫人の意向を伺い、いったんは断るが、周倉は諦めない。そこで関羽が再び二夫人に意向を伺うと、周倉ひとりの随行は許すことになった。

残る手下はしばらく裴元紹(はいげんしょう)が預かることになり、皆で山寨(さんさい)へ引き揚げていく。

(02)汝南(平輿〈へいよ〉?)近くの古城

ほどなく関羽一行は、目的の汝南に近い境まで来た。その日、一行はふと彼方(かなた)の険しい山腹にひとつの古城を見いだす。

『三国志演義(2)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第28回)では古城を地名として扱っているが、吉川『三国志』では(汝南の近くにあった)古い城としてあった。

『三国志演義大事典』によると「古城(県)は後漢では豫州(よしゅう)汝南郡に属す地域。後漢・三国時代にはこの地名はなかった」という。

古城からは煙が立ち上っており、何者かが立て籠もっているものと思われた。関羽と孫乾(そんけん)が小手をかざして見ている間に、周倉が土地の者を引っ張ってくる。

猟夫(りょうし)らしい土民は、3か月ほど前、張飛とかいう恐ろしげな大将が4、50騎ばかりの手下を連れてきて、以前から古城を巣にしていた1千余のあぶれ者や賊将を退治したのだと話す。

そして、いつの間にか壕(ほり)を深くして防柵を結び、近郷から兵糧や馬を駆り集め、今では3千人も立て籠もっているとも言った。

土民を帰すと関羽は孫乾を古城へ遣り、張飛に二夫人の御車(みくるま)を迎えに出るよう伝えさせた。

ここで関羽が「徐州(じょしゅう)没落の後、おのおの離散して半年余り……」と言っていた。

孫乾は張飛に会い、二夫人の車を守って関羽と来たことを告げる。張飛は話を聞くとにわかに城中の部下に陣触れを命じ、自身も山窟の門から駆け出した。

ここで関羽の姿を見つけると、やにわに矛を突っかけて奮いかかる。関羽は矛をかわしながら訳を聞こうとするが、張飛は再び突きかかる。

この様子を見た二夫人は思わず簾(れん)を払い、張飛に控えるよう叫ぶ。それでも張飛は耳を貸さない。そこへ後から来た孫乾が、関羽の言葉を落ち着いて聞けと怒鳴った。

関羽はあくまで張飛をなだめ、自分が従えている士卒は二夫人の御車を押す人数しかいないと言うが、ちょうどこのとき後方から一彪(いっぴょう)の軍馬が追いかけてくる。

関羽は、やってきた大軍を蹴散らして誤解を解くと言い、敵勢を待ち構えた。

これは猿臂将軍(えんぴしょうぐん)の蔡陽(さいよう。蔡揚)の軍勢で、彼は各地の関所を破ったうえ甥の秦琪(しんき)まで殺されたと言い、関羽の首を取って曹操に献ずるつもりだった。

『三国志演義(2)』(第26回)では蔡陽は将軍とだけあった。

張飛の部下が三通の鼓を打つ前に、関羽は蔡陽の首を持ち帰ってみせ、これを放り投げると再び敵を蹴散らしに駆けていく。

『完訳 三国志』(小川環樹〈おがわ・たまき〉、金田純一郎〈かねだ・じゅんいちろう〉訳 岩波文庫)の訳注によると、「太鼓をひとしきり(しばらく続く様子に)打ち立てるのを一通という。その数は唐代(とうだい)の兵法書によると、333回を一通とする由である(『通典〈つてん〉』巻149に引く趙国公王琚〈おうきょ〉の『教射経』)。三通は、合計1千回に近い打ち方となる」という。

関羽の心を見届けた張飛も助勢し、蔡陽の軍勢を壊滅させた。張飛は大いに照れた顔をして3千の手下に向かい、二夫人の御車を擁して谷間を越え渡れと大声で下知し始める。

管理人「かぶらがわ」より

汝南に近い古城で張飛との再会を果たす関羽。登場の仕方が張飛らしかったですね。

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