吉川『三国志』の考察 第009話 「義盟(ぎめい)」

劉備(りゅうび)・関羽(かんう)・張飛(ちょうひ)の3人は、楼桑村(ろうそうそん)の桃園で改めて義兄弟の契りを結んだ。

こうして彼らが黄巾賊(こうきんぞく)討伐に加わることを決めると、その志に感じた近郷の若者たちが少しずつ集まり始める――。

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第009話の展開とポイント

(01)楼桑村(ろうそうそん) 桃園

関羽(かんう)と張飛(ちょうひ)が祭壇を整え終えると、劉備(りゅうび)の母は近隣の村人たちの手を借り、大きな酒瓶(さかがめ)やごちそうを運んでもらう。

手伝いの人たちがみな母屋に退がると、劉備・関羽・張飛の3人は祭壇の前の蓆(むしろ)に座った。ここで関羽が、今日をもって劉備を主君として仰ぎたいと言いだし、張飛も同意。

しかし劉備は承知せず、君臣の誓いは自分たちが一国一城を持ったうえのこととして、ここでは3人で義兄弟の約束を結ぶことにしたいと話す。

関羽や張飛にも異論はなく、改めて3人は祭壇に牛血と酒を注ぎ、ぬかずいて天地の神祇(しんぎ。天の神と地の神)に黙とうを捧げた。

年齢では関羽、劉備、張飛の順になるものの、義約のうえでの義兄弟だということから、長兄には劉備が就く。3人は鼎座(ていざ。三方に向かい合って座ること)して将来の理想を述べ刎頸(ふんけい)の誓いを固めると、祭壇から退がり桃下の卓を囲む。

(02)楼桑村 劉備の家

翌朝、朝食を済ませた3人はさっそく今後の行動について話し合う。

劉備は兵を募ると言いだすが、馬や兵器、そもそも資金がないことから関羽は不安視する。だが、劉備はいささか自信があるという。

関羽は劉備に言われ檄文(げきぶん)を起草。でき上がった檄文を近郷へ飛ばすと、やがて劉備の家の門前に7人ずつ、10人ずつと壮士が集まってきた。4、5日のうちに7、80人が集まったものの、すぐに食糧に困りだす。

そうしていたある日、ひとりの兵士が、何者かが何十頭という馬を引き、この先の峠を越えてくると報告した。

このあたりから再び『三国志演義(1)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第1回)の大筋とも合ってきている。ただ、このとき3人が集まっているのが劉備の家ではなく張飛の家だったり、「桃園の誓い」の前後でいくらか設定の違いはある。

(03)峠のふもと

張飛から話を聞いた関羽は数人の部下を連れ、その一行に掛け合ってみようと峠へ急ぐ。やってきたのは中山(ちゅうざん)の豪商で、ひとりは張世平(ちょうせいへい)、もうひとりは蘇双(そそう。張世平の甥)という者。ふたりは50頭の馬を連れていた。

関羽は、自分たちが義軍を興すに至った愛国の衷情をもって切々と訴える。すると意外にも、ふたりは50頭の馬をみな無料で引き渡すという。

かえって不審を抱いた様子の関羽に、張世平は、黄巾賊(こうきんぞく)の大将である張角(ちょうかく)一門への恨みを語る。これは目先の利益ではなく、遠い将来のことを考えての申し出だった。

関羽はふたりを劉備に引き合わせることにしたが、その道中、自分たちの仲間に経営という観念が欠けていることを教えられる。

(04)楼桑村 劉備の家

張世平は劉備に会うとその人物を見込み、さらに鉄1千斤(きん)と獣皮織物100反(たん)、金銀500両(りょう)を軍費として献上した。劉備は引き留めようとしたが、張世平は「何かまたお役に立つときには出てきますから」と言い、立ち去ってしまった。

近郷から鍛冶工が呼ばれ、張飛は一丈(いちじょう)何尺(なんせき)という蛇矛(じゃぼう)を鍛(う)ってくれと注文し、関羽は重さ何十斤という偃月刀(えんげつとう)を鍛えさせた。

『三国志演義 改訂新版』(立間祥介〈たつま・しょうすけ〉訳 徳間文庫)の訳者注によると「(蛇矛は)穂先が蛇のように曲がっている矛」だという。

なお井波『三国志演義(1)』(第1回)では、ここで劉備も「二本合わせになった剣」を鋳させていた。

やがて雑兵の軍装も整ったころには人数も200人ほどになっていた。そして、いよいよ劉備らは武装した200の兵とともに楼桑村を出発した。

井波『三国志演義(1)』(第1回)では村の荒くれ者が500人ほど集まっていた模様。

管理人「かぶらがわ」より

「桃園の誓い」が語られていた第9話。このエピソード自体は『三国志演義』の創作ですけど、これは吉川『三国志』でも外せませんね。

でも、張世平と蘇双からいろいろもらえちゃうのはどうなのかなぁと思っていたら――。こちらの話のほうは『三国志』(蜀書〈しょくしょ〉・先主伝〈せんしゅでん〉)にしっかり載っていました。これは史実だったのですね……。ちょっと意外。
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(01) 桃園の巻 吉川『三国志』
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