吉川『三国志』の考察 第103話「黄河を渡る(こうがをわたる)」

頼みの顔良(がんりょう)が関羽(かんう)に討たれたことで、袁紹(えんしょう)の本陣に衝撃が走った。

袁紹のもとに身を寄せ、こたびの戦いにも加わっていた劉備(りゅうび)は、自分から願い出て文醜(ぶんしゅう)の第二陣となる。

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第103話の展開とポイント

(01)白馬(はくば)? 袁紹の本営

顔良が討たれたため、その指揮下にあった部隊は支離滅裂となって壊走を続ける。後陣の支援により辛くも退勢を食い止めたものの、袁紹の本陣も少なからず動揺した。

袁紹が、顔良をたやすく討ち取った敵とは何者だろうと周囲に尋ねると、沮授(そじゅ)は、おそらく劉備の義弟の関羽だと答える。

袁紹は、劉備が自分のもとに身を寄せているうえ、こたびも従軍していたので疑って信じなかったが、念のため前線から敗走してきた兵士に問いただす。

兵士は見たままを語ったが、袁紹は話の中の容貌などから関羽と確信。たちまち怒気を発し、劉備を連れてくるよう怒鳴った。

袁紹は頭から罵り、曹操(そうそう)と内応したと責めるが、劉備は懸命に弁明する。

それを聴くと、袁紹の心はすぐになだめられてしまう。劉備を座上に請じて沮授に謝罪の礼を執らせ、そのまま敗戦挽回の策を議し始める。

すると顔良の弟の文醜が進み出て先鋒を願い出た。袁紹は願いを聞き入れ10万の精兵を授ける。文醜は即日、黄河(こうが)まで進出した。

顔良と文醜を兄弟とする根拠がわからず。劉備と関羽のような義兄弟の意味合いか? なお『三国志演義(2)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第26回)では文醜が、顔良とは兄弟同然だったと言っていた。

(02)黄河のほとり

文醜は曹操軍にさしたる戦意がないと見るや、無数の船に乗り分かれて打ち渡り、黄河の対岸へ攻め上がっていく。

(03)袁紹の本営

沮授は文醜の用兵ぶりを危ぶみ注意を促す。また今の上策として、官渡(かんと)と延津(えんしん)に兵を分け、勝つに従い徐々に押し進むに限るとも進言。

ところが袁紹はひどく我意を出し、叱って進言を退ける。その日から沮授は仮病を唱え、陣務に出てこなくなった。

劉備は、日ごろ大恩を被りながらむなしく中軍にいるのは本望でないと言い、関羽の実否を確かめる意味でも先陣に出たいと嘆願。

袁紹が願いを聞き入れると、文醜が単身、軽舸(けいか。速く進むことができる小舟)に乗り中軍へやってくる。彼が劉備も先陣に起用されたことへの不満を述べると、袁紹は、劉備の才力を試そうというだけのことだと応じた。

文醜は袁紹の同意を得て、4分の1弱の兵を劉備に分け、第二陣へ退がらせる。そして自身は優勢な兵力を抱え、第一陣と唱えて前進を開始した。

井波『三国志演義(2)』(第26回)では、文醜は(10万のうち)3万の軍勢を劉備に分け、後詰めに回している。

管理人「かぶらがわ」より

袁紹の本営の位置がはっきりしません。数話前から気になっていましたが、冀州(きしゅう。鄴城〈ぎょうじょう〉)から南下して黄河北岸の黎陽(れいよう)へ進むのはわかるのですけど……。

白馬は黄河の南岸にあるので、先鋒の顔良が黄河を渡って白馬へ進み、前の第102話(04)で関羽に斬られた、ということなのですよね?

顔良が斬られて指揮下の部隊が壊走するのは当然としても、なぜ袁紹の本陣にまで影響があったのかがわからない。このとき袁紹の本陣も(黄河を渡って)白馬にあったという設定なのでしょうか?

でもそれだと、黄河を打ち渡り攻め上がっていった文醜が、なぜ軽舸に乗り中軍にやってきたのかがわからない。このような記述にするなら、まだ袁紹の本陣は黄河の北岸にないと変じゃない?

まぁ文醜が軽舸に乗って、同じく黄河南岸の白馬にある袁紹の本陣に来た、という可能性もあるか? もう少し地名に触れてくださると、展開が理解しやすいのですけど……。

ちなみに井波『三国志演義(2)』(第27回)では、文醜が出撃する前に劉備が同行を願い出たことになっています。なので文醜が軽舸に乗って戻ってくるという記述はありません。

また、先の第101話(01)で「白馬の野に集まれ!」という檄文(げきぶん)が出て、白馬の国境にいた曹操の常備兵を蹴散らしたとあったのに、このとき顔良が勢いに乗じて黎陽方面まで突っ込んでいたというのが、地理的によくわからないのですよね。

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吉川英治著 新潮社 新潮文庫
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記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。

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