吉川『三国志』の考察 第075話「破瓶(はへい)」

曹操(そうそう)配下の郭嘉(かくか)の献策による水攻めに遭い、下邳(かひ)城内の呂布軍(りょふぐん)は日ごとに動揺の色を濃くする。

そのうち暴酒にふけるようになった呂布は、ある朝、鏡の中に見た己の姿に衝撃を受け、すぐさま全軍に禁酒令を出す。ところが――。

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第075話の展開とポイント

(01)下邳

最後の一計がむなしく半途に終わり、それ以来、呂布は城にあって悶々(もんもん)と酒ばかり飲んでいた。

だが、下邳を包囲し60余日を経た曹操にも後方に憂いがあり、すでに冬期に入り凍死する兵馬が数知れなかった。

(02)下邳の城外 曹操の本営

そのころ曹操のもとに早打ちが着き、河内(かだい)の張楊(ちょうよう)が呂布を助けんと称し、兵を動かしたことが伝わる。

ところが張楊は心変わりした配下の楊醜(ようしゅう)に殺され、軍勢が奪い取られて大混乱が起こったということで、眭固(けいこ)という者が張楊の仇(あだ)だと言って楊醜を殺し、軍勢をひきいて犬山(けんざん)方面まで動いてきたとのことだった。

曹操は史渙(しかん)を犬山へ向かわせ、眭固を討ち取るよう命ずる。

このあと曹操が許都(きょと)を取り巻く敵に思いを巡らせていた。都の北に西涼(せいりょう)の憂いがある、というのはいいとしても、「東には劉表(りゅうひょう)」というのは解せない。

ここでは「東には劉表、西には張繡(ちょうしゅう)」と続けていたので、字面の都合なのかもしれないが……。劉表も張繡と同様、許都から見れば西(というか南西)に位置している。

思い余った曹操は諸将を集めて弱音を吐き、軍勢を帰すと言いだす。しかし荀攸(じゅんゆう)は声を励まして諫め、退くことの不利を説く。

さらに郭嘉が、泗水(しすい)と沂水(ぎすい)に堰(せき)を作り、両水をひとつにして水攻めにするという策を献ずる。

2万の人夫に兵士を督し、ふたつの川をひとつに集めたところ、ちょうど暖日の雨も続いたため、たちまち下邳は濁流に浸された。

(03)下邳

2尺(せき)、4尺、7尺と、夜が明けるたびに水かさは増していく。城中の兵は生きた空もなく、次第に居どころを狭められる。

呂布はうろたえる部将たちにわざと強がって見せたが、頼みなき大雪風を頼んで日夜暴酒にふけっていた。ふと宿酔(ふつかよい)から醒(さ)めると、鏡の中に見た自分の老けた姿に嘆声を漏らす。

これは酒の毒だと思い、たちまち禁酒。同時に城中の将士にまで飲酒を厳禁し、酒犯の者は首を刎(は)ねるという命令を出した。

このころ、侯成(こうせい)の馬15頭が一夜にいなくなるという事件が起こる。調べによって馬飼いの士卒の仕業だったことがわかり、侯成は彼らを追いかけ、皆殺しにして馬を取り返した。

ほかの部将たちは侯成を賀し合い、「奢(おご)るべし、祝うべし」と囃(はや)す。

折ふし城中の山から猪(イノコ)を十数頭狩ってきた者があったので、酒蔵を開き猪を料理し、「今日は大いに飲もう」となった。

そこで侯成は酒5瓶(かめ)と肥えた1頭の猪を部下に担がせ、呂布のところにやってくる。

『三国志演義(2)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第19回)では酒のことは見えるが、猪のことは見えない。

そして、不埒者(ふらちもの)の成敗と馬を取り返したことを報告し、諸将とともに祝宴を開いていると伝えた。

すると呂布は急に怒りだし、酒瓶を蹴倒す。さらに禁酒の命令を破ったことを責め、左右の武士に侯成を斬れと罵った。

これを聞いた諸将が口を極めて命乞いしたため、呂布は命こそ助けたが、百杖(ひゃくじょう)を打って見せしめにするよう命ずる。

井波『三国志演義(2)』(第19回)では、呂布は最初に棒打ち100回を命じたが、諸将の哀訴により棒打ち50回に処している。

鞭(むち)打ちが70回を超えたころ、侯成はひと声うめいて悶絶(もんぜつ)。それを見た呂布が閣の奥に去ると、諸将は武士に目くばせし、回数を飛ばして数えさせた。

やがて一室で目を覚ました侯成は、友人の魏続(ぎぞく)と宋憲(そうけん)しかいないのを見て不満を語る。ふたりも同じ思いを抱いており、3人で曹操に降ることを決意。

侯成は重傷の身を起こして身支度を整えると、四更(午前2時前後)のころ呂布の厩舎(うまや)に忍び入り、赤兎馬(せきとば)を盗んで城外へ脱出する。

管理人「かぶらがわ」より

酒の毒に冒され、すっかり老けた自分の顔を見て衝撃を受ける呂布。自身の禁酒はいいとしても、それを皆にも強制するのは……。

結局、部将たちより頼みにしていた赤兎馬が引き出され、侯成が投降するという事態を招いてしまいました。これでは自滅ですよね。

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記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。

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