吉川『三国志』の考察 第089話「不戦不和(ふせんふわ)」

徐州(じょしゅう)の劉備(りゅうび)を攻めていた曹操(そうそう)配下の劉岱(りゅうたい)だったが、張飛(ちょうひ)の策にはまって生け捕られる。

だが劉備は、先に関羽(かんう)の手で生け捕った王忠(おうちゅう)ともども解放し、曹操に敵対する意思がない旨を伝えてほしいと頼む。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

第089話の展開とポイント

(01)徐州の郊外

張飛は劉備の許しを得ると、3千の兵をひきいて曹操配下の劉岱の生け捕りに向かう。

だが劉岱は陣門を固く守って出ず、短兵急に押し寄せた張飛も手の下しようがない。毎日、寨(とりで)の下まで行っては士卒をけしかけ悪口雑言を浴びせたが、敵は首さえ出さなかった。

そこで張飛は、今宵の二更(午後10時前後)のころに夜討ちをかけるとして、準備を整えておくよう命ずる。これが済むと昼から士卒に酒を振る舞い、張飛もしたたか飲んだ。

そのうち張飛は、科(とが)のない士卒を散々に打擲(ちょうちゃく)した揚げ句、大木の上にくくっておけと言いつける。晩の門出に軍旗の血祭りに供えるとも言った。

すると夕闇を這(は)い、木を登ってきた別の士卒が何か耳元でささやいた後、くくられていた士卒の縄目を切る。ふたりは陣を脱走し、闇に紛れてどこかへ去った。

まだ軍営で酒を飲み続けていた張飛は、ひとりの伍長(ごちょう)から、懲罰に処した士卒が逃げ出したとの知らせを受ける。しかし伍長を責めず、それでいいと言って笑う。

やがて二更のころ張飛は3千の兵を3つに分け、そのひとつは間道を忍び、そのひとつは山を越え、そのひとつは止まって敵の前面に向かう、とそれぞれに命ずる。

この命令が伝わると、まず夜靄(よもや)の中に2千の兵が動く。張飛は残る1千の兵とともに留まり、なお一刻ほど酒壺(しゅこ)を離さず、時折、星の移行を測っていた。

劉岱の寨では張飛側の脱走兵から今夜の夜討ちを聞き、ひどく緊張していた。それでも劉岱はこの密告が信じきれず、自らふたりの脱走兵を取り調べる。

科もないのに打擲されたという脱走兵を裸体(はだか)にさせると、顔や手足ばかりでなく、背にも臂(ひじ)にも縄目の跡がアザになっていた。疑い深い劉岱も半分以上は信じてきたが、心を決めかね夜討ちへの備えを怠っていた。

そうしていると二更を少し過ぎたころ、寨内に夜襲を知らせる警板の音が鳴り響く。劉岱は前面から襲ってきた敵を防ぎに出る。

張飛は崩れた味方と火に巻かれて逃げ惑うが、劉岱が追ってくるのを見ると馬を向け、手捕りにしようとおめきかかった。

劉岱は逃げ足だっていた敵が攻勢に転じたことを不審に思い、あわてて味方の陣門へ引き返そうとしたが、もはや手遅れ。

正面の寄せ手は張飛の兵の3分の1にすぎず、3分の2は寨の後ろや側面の山に回っており、それらが機を見て一斉になだれ込んできたため、すでに寨は奪われていた。

張飛はうろたえる劉岱を見つけて引っつかみ、連れて帰るよう命ずる。その縄尻は、彼の命によってわざと陣を脱走し、劉岱に今夜の夜襲を密告したふたりの兵卒が持った。

残りの敵兵もあらかた降伏したので、張飛は寨を焼き払い、劉岱以下、多くの捕虜を引き連れて徐州へ帰る。

(02)徐州

劉備は戦況を聞くと限りなく喜び、手際を褒めた。そして自ら張飛らを城外まで出迎え、劉岱の縄目を解いて一閣に案内する。

劉備は、先に捕らえた王忠と新たに捕らえた劉岱に、改めて自分は曹操に背く気がないと言い、この衷情をくれぐれも丞相(じょうしょう。曹操)へ厚く伝えてほしいと頼む。

翌日、劉備は劉岱と王忠を城外へ送り出し、捕らえた部下もみな返す。ふたりは兵をまとめて許都(きょと)へ引き揚げたが、途中で張飛の手勢に襲われる。

ふたりが震え上がっていたところへ関羽が一騎で駆けつけ、張飛を大声で叱った。劉岱と王忠は重ねがさねの恩を謝し、頭を抱えんばかりの態で許都へ逃げ帰った。

その後、劉備は徐州が守備に不利なため小沛(しょうはい)に拠ることにし、妻子一族は関羽に預け、かつて呂布(りょふ)のいた下邳(かひ)へと移す。

『三国志演義(2)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第22回)では、関羽に下邳を守備させ、甘夫人(かんふじん)と糜夫人(びふじん。麋夫人)もそちらへ移す。徐州(彭城〈ほうじょう〉?)は孫乾(そんけん)・簡雍(かんよう)・糜竺(びじく。麋竺)・糜芳(びほう。麋芳)に守備させ、劉備と張飛は小沛に駐屯したとあった。

『三国志演義 改訂新版』(立間祥介〈たつま・しょうすけ〉訳 徳間文庫)の訳者注によると、「(ここでいう徐州は)彭城」だという。

管理人「かぶらがわ」より

捕らえた劉岱と王忠をあっさり解放する劉備。曹操の敵意を少しでも抑えようという配慮でしたが、果たして通用するのかどうか?

テキストについて

『三国志』(全10巻)
吉川英治著 新潮社 新潮文庫
Yahoo!ショッピングで探す 楽天市場で探す Amazonで探す

記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。

コメント ※下部にある「コメントを書き込む」ボタンをクリック(タップ)していただくと入力フォームが開きます

タイトルとURLをコピーしました