曹操(そうそう)は襄城(じょうじょう)へ劉曄(りゅうよう)を遣わし、張繡(ちょうしゅう)を説いて帰順させることに成功する。
続いて孔融(こうゆう)の推薦を容れ、荊州(けいしゅう)の劉表(りゅうひょう)のもとへ禰衡(ねいこう)を遣わすことにしたが、この使者はなかなかのくせ者だった。
第090話の展開とポイント
(01)許都(きょと) 丞相府(じょうしょうふ)
劉岱(りゅうたい)と王忠(おうちゅう)は徐州(じょしゅう)から許都へ帰ると、すぐに曹操に目通りする。そして、劉備(りゅうび)はひたすら朝廷を敬い、丞相(曹操)にも服していると伝えた。
これを聞いた曹操は激怒し、ふたりを死罪に処そうとするが、そばにいた孔融になだめられる。そこで死罪を許す代わりに官爵を取り上げ、身の処置は後日の沙汰とした。
その後、日を改め、曹操は自ら大軍をひきいて徐州へ攻め下らんと議したが、また孔融は自重を勧める。
孔融は、冬の末に向かって兵を動かすよりも来春を待つべきだと言い、その間に荊州の劉表と襄城の張繡を、礼を厚くして麾下(きか)に迎えるよう進言。
曹操は自分の意思とも合致するとして、襄城へ劉曄を遣わす。
(02)襄城
張繡配下の賈詡(かく)は先に劉曄と会って来意を聞くと、張繡に向かい曹操に従うよう勧める。そこへ折も折、河北(かほく)の袁紹(えんしょう)から同じような目的の特使が着く。
賈詡は劉曄に心配しないでよいと言い、成り行きを見ているよう告げる。こうして賈詡は袁紹の使者と城中で対面。用向きを聞いた後、書簡を破り捨てて追い返す。
張繡は、袁紹の使者を独断で追い返したと聞いてなじったが、賈詡は、同じ下風に付くなら曹操に降ったほうがマシだと言う。
翌日、賈詡は劉曄を張繡に引き合わせる。張繡は劉曄の説得に心を動かされ、ついに襄城を出て曹操に降ることを決めた。
(03)許都 丞相府
曹操は手を取らんばかりに出迎え、張繡を揚武将軍(ようぶしょうぐん)に任じたうえ、この斡旋(あっせん)に功のあった賈詡を執金吾(しつきんご)に任ずる。
こうして襄城の誘降は外交だけで大成功をみたが、荊州のほうは完全に失敗した。曹操が遣わした誘降の使者は劉表に一笑され、まるで相手にされず追い返されてしまったのだ。
この話を聞いた張繡は手始めの働きにと、劉表とは多年の交わりがあるので、自分が書簡をしたためると申し出る。
★『三国志演義(2)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第23回)では、張繡が劉表あての書簡をしたためたことは見えない。
そして書簡を差し出しながら、誰か弁舌の士が携えていけば、必ず功を奏すると思うと言い添えた。
曹操が、しかるべき説客(ぜいかく)はいないかと皆に尋ねると、孔融が平原(へいげん)の禰衡を推薦。曹操は彼の学識の高さや弁舌の鋭さを聞き、すぐに召し呼ぶよう使いを遣った。
ところが禰衡は普段着ている垢(あか)臭い衣服のまま現れ、曹操らが並み居る閣の真ん中に立つと無遠慮に辺りを見回し、「あぁ、人間がいない、人間がいない……」と嘆く。
曹操は彼に求められるまま、荀彧(じゅんいく)・荀攸(じゅんゆう)・張遼(ちょうりょう)・許褚(きょちょ)・李典(りてん)・楽進(がくしん)・于禁(うきん)・徐晃(じょこう)・夏侯惇(かこうじゅん)・曹子孝(そうしこう。子孝は曹仁〈そうじん〉のあざな)の名を挙げ、それぞれの才について語って聞かせる。
★井波『三国志演義(2)』(第23回)では曹操が、荀彧・荀攸・郭嘉(かくか)・程昱(ていいく)・張遼・許褚・李典・楽進・呂虔(りょけん)・満寵(まんちょう)・于禁・徐晃・夏侯惇・曹子孝(曹仁)の名を挙げていた。
すると禰衡は腹を抱えて笑いだし、曹操に促されると、荀彧・荀攸・程昱・郭嘉・張遼・許褚・李典・満寵・徐晃・于禁・夏侯惇の名を挙げ、いちいち酷評していく。
★井波『三国志演義(2)』(第23回)では禰衡が、荀彧・荀攸・程昱・郭嘉・張遼・許褚・楽進・李典・呂虔・満寵・于禁・徐晃・夏侯惇・曹仁の名を挙げ酷評していた。
さすがの曹操も心中にひどく怒りを燃やすが、今度は禰衡自身の能力について問いただす。
禰衡は「天文地理の書、ひとつとして通ぜずということなく、九流三教のこと、悟らずということなし」などと、自らの才能を誇る。
★この記事の主要テキストとして用いている新潮文庫の註解(渡邉義浩〈わたなべ・よしひろ〉氏)によると、「九流は儒・法・名・墨・縦横・雑・農という学問の流派。三教は儒・仏・道という宗教を指す。転じて、あらゆる学問・教えのこと」だという。
列座の中で剣環が鳴ったと思うと、怒鳴りながら立ち上がった張遼があわや禰衡に跳びかかり、斬ってしまおうという形相をしていた。
曹操は張遼を鋭く押しとどめると、言葉を改めて皆に告げる。
「いま禁裏(宮中)の楽寮に、鼓を打つ吏員を欠いていると聞く。近日、朝賀の酒宴が殿上で行われるから、その折に禰衡を用いて鼓を打たせようではないか」
禰衡はあえて辞さず、むしろ得意げに引き受け、その日は悠々と退いた。
管理人「かぶらがわ」より
劉表と張繡を降しにかかる曹操。張繡のほうは首尾よくいきましたが、劉表のほうは失敗。ここで謎の奇人禰衡が登場。彼は口だけの男なのか? この次も波乱の予感が……。
テキストについて
『三国志』(全10巻)
吉川英治著 新潮社 新潮文庫
Yahoo!ショッピングで探す 楽天市場で探す Amazonで探す
記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。
コメント ※下部にある「コメントを書き込む」ボタンをクリック(タップ)していただくと入力フォームが開きます