吉川『三国志』の考察 第156話「一竿翁(いっかんおう)」

皆の前で周瑜(しゅうゆ)に罵倒されたうえ、百杖(ひゃくじょう)の刑まで受けて寝込む黄蓋(こうがい)。そこへ闞沢(かんたく)が見舞いにやってくる。

秘策を打ち明けられた闞沢は、黄蓋から託された曹操(そうそう)あての書簡を懐に、漁翁姿で長江(ちょうこう)北岸の敵地へ乗り込む。

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第156話の展開とポイント

(01)長江の南岸 黄蓋の軍営

ここ4、5日というもの、黄蓋は陣中の臥床(ふしど)に横たわったまま粥(かゆ)をすすり、日夜うめいていた。入れ替わり立ち替わり諸将が見舞いに来ている。

そのうち日ごろ親しい闞沢が来ると、黄蓋は無理に身を起こした。そして秘策を打ち明け、曹操あての書簡を託す。

闞沢は、それを受け取るとさりげなく暇(いとま)を告げ、いつか呉(ご)の陣中から姿を消していた。

(02)長江の北岸 曹操の本営

その後、曹操の水寨(すいさい)のほとりで、ひとり釣り糸を垂れている漁翁があった。

江岸に住む漁夫や住民は、もう連年の戦争に慣れていて、戦いのない日は閑々として網を打ち、針を垂れているなど決して珍しい姿ではなかった。

だが、このところひどく神経が鋭くなっている曹操軍の見張りは、あまりに漁翁が水寨に近づいて釣りをしているので、たちまち走舸(そうか。速く走る小舟)を飛ばしてくる。そのまま有無を言わさず搦(から)め捕り、引っ立てていった。

深夜ながら、呉の参謀官の闞沢が一漁翁に身をやつし、何事か直言したいと言ってきているとのことに、曹操は寝房を出て物々しく待ち構えていた。

闞沢から口調や態度を非難されると、曹操は非礼を謝すと言い、改めて話を聴く。そこで闞沢は、黄蓋が降伏を願い出ていると伝え、預かってきた書簡も差し出す。

曹操は書簡を10回余りも読み返していたが、これしきの苦肉の計に偽られようかと言い、明白なる謀略だと断じて闞沢を斬るよう命ずる。

しかし闞沢は自若として少しも騒がないばかりか、かえって声を放って笑う。

「音に聞く魏(ぎ)の曹操とは、かかる小人物とは思わなかった」

曹操は、冥土の土産に詐術だと看破した理由を聞かせると言い、黄蓋の書簡には、降ってくる日時に何も触れられていなかったことを指摘する。

すると闞沢は曹操の浅学を笑う。そして、もし日限を約して急に支障を来し、来会の日をたがえたなら、丞相(じょうしょう。曹操)の心は疑心暗鬼に捕らわれ、ついに一心合体の成らぬのみか、黄蓋は拠るに陣なく帰るに国なく、自滅のほかなきに至ると反論。

ゆえにわざと日時を明示せず、好機を計って参らんというこそ事の本心を証するもので、よく兵の機謀にかなうものだと説いた。

曹操は闞沢に賓客の礼を執り、座に請じ改めて使いをねぎらい、酒宴を設けてさらに意見を求める。そこへひとりの侍臣が入ってきて、そっと曹操の袂(たもと)へ何やら書状らしきものを渡して退がった。

闞沢は、呉陣へ紛れ込んでいる蔡和(さいか)と蔡仲(さいちゅう。蔡中)から、さっそく何か密謀が来たと感づく。だが何げない態を繕い、しきりと杯を挙げ、かつ弁じていた。

管理人「かぶらがわ」より

闞沢の決死の弁舌に、だいぶ心を動かされた様子の曹操。容貌は伝わっていないのでしょうが、なぜか闞沢と漁翁というのはイメージが合う気がします。

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記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。

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