【姓名】 趙直(ちょうちょく) 【あざな】 ?
【原籍】 ?
【生没】 ?~?年(?歳)
【吉川】 第310話で初登場。
【演義】 第104回で初登場。
【正史】 登場人物。
蜀(しょく)の夢占い師
父母ともに不詳。
趙直は経歴がはっきりしないものの、『三国志』(蜀書〈しょくしょ〉)やその裴松之注(はいしょうしちゅう)にいくつかのエピソードが見える。
蔣琬(しょうえん)が広都県長(こうとけんちょう)を務めていたころ、職務怠慢のかどで免官されたことがあった。
蔣琬は取り調べを受けた後、夜に夢を見る。それは、牛の頭が門前に転がり、そこから血が流れ出している、というものだった。
蔣琬はひどく不快に思い、趙直を呼んで尋ねる。
すると趙直が答えた。
「血を見るというのは、政治に明るいことを暗示しています。牛の角と鼻とで『公』の字を表しており、あなたは必ず公の位まで昇られるでしょう。これは大吉のしるしですよ」
後に蔣琬は大将軍(だいしょうぐん)や大司馬(だいしば)にまで昇り、趙直の言った通りになった。
また、何祗(かし)が井戸の中に桒(くわ。桑の俗字)が生えている夢を見て、趙直に尋ねたことがあった。
趙直はこう答えた。
「桒は井戸の中に生えるものではありませんから、これを植え替えねばなりません。しかも『桒』の字は、四十の下に八と書きます。あなたの寿命は、おそらくそれ以上にならないでしょう」
これを聞いた何祗は笑って言った。
「それだけあれば十分だ」
後に何祗は諸郡の太守(たいしゅ)を歴任して治績を上げたが、趙直の言った通り48歳で死去(時期は不明)した。
234年、丞相(じょうしょう)の諸葛亮(しょかつりょう)が北谷口(ほっこくこう)に進軍し、魏延(ぎえん)が先鋒を務めた。
諸葛亮の本営から10里の場所にいたとき、魏延は頭に角が生える夢を見たので、趙直に見解を尋ねる。
趙直が答えた。
「麒麟(きりん)は角を持っていますが、使うことはありません。これは戦わずして賊軍(魏軍)が自滅する兆しです」
ところが魏延のもとから退出した後、趙直はほかの者にこう言った。
「『角』という字は刀の下に用がある。頭の上に刀を用いるわけだから、これはひどい凶兆なのだ」
この年、諸葛亮が陣没すると、反逆者に仕立てられた魏延は息子たちを連れて漢中(かんちゅう)へ逃走した。
しかし、楊儀(ようぎ)の命を受けた馬岱(ばたい)に追いつかれて斬殺され、三族(父母・妻子・兄弟姉妹。異説もある)も処刑された。
管理人「かぶらがわ」より
蔣琬の話は『三国志』(蜀書・蔣琬伝)に、何祗の話は『三国志』(蜀書・楊洪伝〈ようこうでん〉)の裴松之注に引く陳寿(ちんじゅ)の『益部耆旧伝(えきぶききゅうでん)』の雑記に、それぞれよるもの。
そして魏延の話は『三国志』(蜀書・魏延伝)に見えており、こちらは『三国志演義』(第104回)や吉川『三国志』(第310話)でも使われていました。
「夢占い師」と言ってしまうと何だか怪しげな印象を受けますけど、当時はこのジャンルも学問の一分野だったのですよね。
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