吉川『三国志』の考察 第124話「琴を弾く高士(ことをひくこうし)」

劉表(りゅうひょう)配下の蔡瑁(さいぼう)の計略をかわし、檀渓(だんけい)を跳んで対岸へ逃れた劉備(りゅうび)。

しばらく進んだところでひとりの童子に呼び止められると、誘われるまま司馬徽(しばき。水鏡先生〈すいきょうせんせい〉)の住まいを訪ねた。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

第124話の展開とポイント

(01)司馬徽の庵(いおり)

檀渓を跳んで辛くも一命を拾った劉備。ひとりさまよっていたところを童子に呼び止められ、誘われるまま司馬徽(水鏡先生)の庵を訪ねる。

ここで劉備自身が、はや47歳になったことを嘆じていた。延熹(えんき)4(161)年生まれの彼が、このとき(建安〈けんあん〉12〈207〉年)47歳だったというのは史実とも合う。

またここで童子が、劉備の耳が人並み優れて大きく、「大耳子(だいじし)」とあだ名されていたことを語っていた。

劉備が童子に取り次ぎを頼んでいると、はたと琴の音がやみ、たちまちひとりの老人が内から扉を排してとがめる。

ここで司馬徽を「老人」や「年は50余りとおぼしく」などと表現していたが、何を典拠にした設定なのかわからなかった。

司馬徽は劉備と挨拶を交わし、草堂へ迎え入れる。劉備は檀渓を跳ぶに至った経緯を包まずに語った。

司馬徽は、すでに立派な朝廷の藩屛(はんぺい。国家の守りとなる諸侯)たるあなたが、なぜ他人の領地でむなしく大事な時を過ごしているのかと惜しむ。

ここで司馬徽に現在の官職を尋ねられた劉備が、左将軍(さしょうぐん)・宜城亭侯(ぎじょうていこう)で予州牧(よしゅうぼく。豫州牧)を兼ねていると答えていた。

このときの官爵は史実とも合っているが、先の第121話(07)では公孫康(こうそんこう)も左将軍に任ぜられたとあった。このあたりの兼ね合いは史実も含めてよくわからなかった。

劉備は「時の運は如何(いか)んともいたしがたい」などと運命のせいにするが、司馬徽は顔を振って打ち笑いながら、「将軍(劉備)の左右に良い人がいないためだと思う」と言う。

その言葉に反論する劉備だったが、関羽(かんう)・張飛(ちょうひ)・趙雲(ちょううん)は一騎当千の勇ではあるが、権変の才はない。

孫乾(そんけん)・糜竺(びじく。麋竺)・簡雍(かんよう)らも言わば白面の書生で、世を救う経綸(けいりん)の士ではない、とも言われると、しばらくさしうつむいて黙考する。

やがて劉備は面を上げ、今の世に張良(ちょうりょう)・蕭何(しょうか)・韓信(かんしん)のような人物を望むほうが無理だと思う、と言った。そのような俊傑が隠れているはずはない、とも。

しかし、司馬徽は聞きもあえずに面を振り、「いつの時代でも決して人物が皆無ではない。ただそれを用いる具眼者がいないのだ」と、彼の考えを否定する。

劉備が教えを乞うと、司馬徽は近ごろ諸方で歌われているという童歌を持ち出して説く。

建安8(203)年に劉表が前妻(陳氏〈ちんし〉)を亡くしたところから家が乱れ始めたこと。建安13(208)年に劉表が死去するであろうこと。そして天命は帰するところがあること。

劉備は、天命の帰するところとはあなたのことだと言われて驚く。

また司馬徽は、臥龍(がりょう)か鳳雛(ほうすう)のうちひとりを得ることができれば、おそらく天下は掌(たなごころ)にあると告げる。

劉備は身を乗り出し、さらにふたりの素性を聞こうとするが、司馬徽は不意に手を打ち、「好々(よしよし)、好々」と言いながら笑った。唐突な奇言にとまどう劉備だったが、これは司馬徽の癖だと後で知った。

司馬徽は劉備と食事をともにし、今宵は臥房(ふしど)へ入り休むよう勧める。劉備は好意に甘えて別の部屋へ入ったが、なかなか寝つけなかった。

すると深夜に馬のいななきが聞こえ、庵の後ろで人の気配や戸の音がする。思わず耳を澄ませていると、徐元直(じょげんちょく)という壮年らしい男が訪ねてきたようだ。

翌朝、劉備は昨夜の客のことを尋ねる。司馬徽は、良い主君を求めるため、もう他国へ出かけただろうとだけ答えた。

劉備は足元にひざまずき再拝しながら、新野(しんや)へ来てほしいと頼む。だが司馬徽はカラカラと笑い、自分に十倍百倍もするような人物が、今に必ず将軍をお助けするだろうと答え、自身は動こうとしない。

なお劉備は臥龍と鳳雛の名や所在を聞き出そうとしたが、司馬徽は「好々」と応ずるのみ。

そのとき童子が駆け込み、数百人の兵を連れた大将が庵の外を取り囲んだと伝える。劉備が出てみると趙雲の一隊だった。

管理人「かぶらがわ」より

現在の陣容に欠けているものをズバッと指摘された劉備。司馬徽から言われるまでもなく、このころの劉備は欠けているものばかりなのですよね……。

テキストについて

『三国志』(全10巻)
吉川英治著 新潮社 新潮文庫
Yahoo!ショッピングで探す 楽天市場で探す Amazonで探す

記事作成にあたり参考にさせていただいた各種文献の詳細は三国志の世界を理解するために役立った本(参考文献リスト)をご覧ください。

コメント ※下部にある「コメントを書き込む」ボタンをクリック(タップ)していただくと入力フォームが開きます

タイトルとURLをコピーしました