吉川『三国志』の考察 第079話 「油情燈心(ゆじょうとうしん)」

帰宅した董承(とうじょう)は、献帝(けんてい)より賜った玉帯の中から血でしたためられた密詔を見つけ、その文面に涙する。

さっそく董承は信頼できそうな仲間を捜しにかかるも、こうして集めた同志たちは今ひとつ決め手に欠けていた。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

第079話の展開とポイント

(01)許都(きょと) 董承邸(とうじょうてい)

献帝(けんてい)から御衣と玉帯を賜った董承。急いで屋敷に帰ると、すぐに一室に閉じこもりふた品を改めてみる。しかし御衣からも玉帯からも、一葉の紙片さえ出てこなかった。

董承が献帝から御衣と玉帯を賜ったことについては、前の第78話(01)を参照。

このとき漏れてきた風により、傍らの灯火から丁子頭が落ちた。董承が焦げた臭いに驚いて目を覚ますと、灯心の丁子が玉帯のうえに落ちていぶりかけている。あわてて手でもみ消したものの、龍の丸の紫錦襴(しきんらん)に親指の頭ほどの焦げ穴が開いていた。

紫金襴については先の第31話(01)を参照。

ここで出てきた献帝の密詔には「建安(けんあん)4(199)年春3月詔」とあった。吉川『三国志』は文中の出来事の日付を細かく記さないため、こういうところは拾っておく必要がある。

董承は献帝の思いを知って涙するが、事は容易ではないと、密詔を袂(たもと)に入れ書院のほうへ歩いていく。

侍郎(じろう)の王子服(おうしふく)は董承の無二の親友だったが、その日は小暇を賜り彼の屋敷を訪れ、終日、奥で遊んでいた。

夕方になっても董承が顔を見せないので、王子服が少し不平そうに聞くと、家族のひとりが答える。董承は奥にいるが、先日から調べ物があると言って引きこもっており、誰にも会わないことにしているという。

王子服は家族が止めるのも聞かず、ひとりで書院へ通っていく。そっと部屋をうかがった王子服の目に、白絖に血で書かれた文中に朕という字がふと映った。人の気配に振り向いた董承は、王子服がいるのを見てあわてて机上の一文を隠す。

王子服は事態を察し、董承がひとりで憂いやつれていることが親友として不満だと述べ、協力することを誓う。

そこでふたりは密室の燭(しょく)を切り、改めて義盟の血をすすり合うと、後に一巻の絹を取り出し、まず董承が義文をしたためて署名する。次に王子服も姓名を書き載せ、その下に血判した。

董承がよい同志の当てがないか尋ねると、王子服は将軍(しょうぐん)の呉子蘭(ごしらん)を挙げる。自分の良友で、特に忠義の心が厚い人物だという。

董承のほうも校尉(こうい)の种輯(ちゅうしゅう)と議郎(ぎろう)の呉碩(ごせき)がいると言い、よい日を計って打ち明けてみることにする。夜も更けたので、そのまま王子服は屋敷に泊まった。

翌日も董承と王子服は密かに話し込んでいたが、昼ごろになって种輯と呉碩が訪ねてくる。ふたりの本心を見るまではと、王子服は屛風(びょうぶ)の陰に隠れ、董承ひとりで出迎えた。

呉碩は、先日の許田(きょでん)の猟(かり)についての感想を尋ねるが、董承は誠に愉快な日だったと答える。

許田の猟については先の第77話(05)を参照。

ふたりが今日の来意を打ち明けたところ、屛風の後ろから王子服が姿を現し、曹操(そうそう)に訴えると大喝する。

それでもひるまないのを見て、董承と王子服はふたりの心を見届けたと激色をなだめ、改めて密室へ移った。种輯と呉碩も血の密詔に涙し連判に記名。

そこへ取り次ぎの家人が、西涼太守(せいりょうたいしゅ)の馬騰(ばとう)が帰国のあいさつに来たと告げる。董承は用心し、許田の猟からずっと病気で引きこもっているということにして丁寧に断らせた。

ところが馬騰は帰ろうとせず、病床でもいいから面会したいと言う。董承も根負けし、是非なく病態を繕い、別の閣で会うことにした。

馬騰は許田の猟における曹操の暴状に憤っており、この様子を見た董承は彼を奥の閣へ誘う。

馬騰は董承から真意を聞き、また血の密詔を拝して男泣きに慟哭(どうこく)。ただちに彼が血判すると、董承は王子服・种輯・呉碩を呼んで引き合わせ、これで同志は5人になった。

董承の言葉で、王子服がすぐに呉子蘭を迎えに行く。そしてこの日、呉子蘭も義盟に加わり、同志は6人になった。

『三国志演義(2)』(井波律子〈いなみ・りつこ〉訳 ちくま文庫)(第20回)では、王子服が呉子蘭を連れてきたのは、馬騰の来訪より先ということになっている。

やがて密室は6人が前途を祝う小宴となり、宮中の列座鴛行鷺序(れつざえんこうろじょ。官員録)を取り寄せ、さらなる同志を捜してみる。

この記事の主要テキストとして用いている新潮文庫の註解(渡邉義浩〈わたなべ・よしひろ〉氏)によると「鴛行も鷺序も列をなして飛行する鴛(オシドリ)と鷺(サギ)で、朝廷の官吏の位次を表す」という。

馬騰が思わず叫ぶ。漢室の宗族の内に予州刺史(よしゅうしし。豫州刺史)の劉玄徳(りゅうげんとく。玄徳は劉備〈りゅうび〉のあざな)の名があると。

馬騰はみなに、許田の猟で曹操が傍若無人な振る舞いをした際、劉備の舎弟の関羽(かんう)が斬りかかりそうな血相をしていたと言い、彼の加盟に脈があることを伝える。

それでも劉備の人物を考えると、味方に引き入れることは容易ではないと思われ、その日は立ち別れて好機を待つことにした。

許田の猟における関羽の様子については、先の第77話(05)を参照。

管理人「かぶらがわ」より

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
吉川『三国志』 (04) 臣道の巻
このページをシェアする
「かぶらがわ」をフォローする
今日も三国志日和 – 史実と創作からみる三国志の世界 –

コメント

タイトルとURLをコピーしました